志賀直哉の短編に寄せる雑感です。
「菜の花と小娘」
小娘ちゃんが菜の花ちゃんを山から麓の村へ連れて行ってあげるお話。
絵本みたいな可愛らしさ。自然の描写も、簡単なのに不足なく、頭に絵が描けます。
「或る朝」
起こす者と起こされる者の普遍的な戦いを描いた、朝の一幕。
ただのおばあちゃんvs孫(仲良し)の図。家族の朝あるあるが散りばめられてます。
「網走まで」
当時、上野から青森経由で網走まで行くのに一週間かかっていたそうな。遠い!!
今でも飛行機を使わないとしたら札幌からJR(特急)で5時間30分かかるんだもんね……。北海道広い。
作中で、網走の方面を指して『北見国』と呼んでいますが、いつ頃まで五畿八道の区分(呼び名)がポピュラーに使用されていたんでしょうね。この作品は1910年のもので、その頃の時代設定で書かれていると思うのですが……。
横道に逸れまくってしまいましたが、電車で乗り合わせた母子の様子を観察したお話です。子どもの仕草などの細かな描きようは、さすが。
「速夫の妹」
朝香家の人々との交流。ちょっと気になる友人の妹・お鶴さんが、子どもから大人になっていく間のあれこれ。
鉄棒の『藤下り』なる技がどんなものかご存知の方、教えてください。
「荒絹」
美しい山の女神が美しい人間の少年に恋する話。少年の恋人との女のバトル。
織物の描写が終わりまで綺麗。神話っぽいテイスト。
「孤児」
幼くして父に死なれ、若い母が再婚する際に他所に引き取られた生い立ちのせいもあってか、ちょっとキツい性格で陰気な敏さん。主人公の義理の妹です。
主人公の目線で敏の結婚から離婚まで(赤ちゃんだけ取られて放り出される!)を追っています。
主人公はあくまで彼女に同情的で終始優しいのだけど、血の繋がりがない為か、どこかそのまなざしは俯瞰的であり、気難しく御しきらぬ敏への複雑な感情が見え隠れして、却ってそこが、飾らなくて気持ちいい。
敏さんは武者小路喜久子さん*1がモデルかと思ったら、この作品は1910年発表なので、違いますね!
参考文献
キーワード:新しき村、竹尾(武者小路)房子、武者小路喜久子
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